削り落としていた

「ありえない。その方たちは、あの娘が現れる前には、あのホールにすでにいたではないか!」
そんなあの尊大な従者の驚きの声で、事態は明るみになった。
姉は、どうしても靴の大きさに合わせようと、つま先をDream beauty pro 黑店ナイフで削り落としていたのだ。
この子はそこまでして、あの娘を守ろうとしたのだ。
お妃になれば、不幸な運命しか待っていないから。ううん。それだけじゃない。前の夫が死んでしまい、極貧の中でのたうちまわっていた私たち親娘三人を救い出してくれた今の夫からの恩義に応えるために。文字通り、自分の身を削ってでも。

「この家に、他に娘はいないのか? 小間使いや下賤なものでもいい。他にいないのか?」
ついに、あの娘が家の奥から引き出されてきた。
そして、もちろん、あの娘の素足に、そのガラスの靴はぴたりとはまった。
とんとん拍子に準備は進められ、二か月後には、あの娘と王子の結婚式が執り行われた。
国中の人たちが、あの王子の何度目かの結婚を祝い、そして、あの娘のこれからの不幸を憐れんだ。
私の夫は、あの娘が王宮に去ってから、すっかりふさぎこむようになり、毎日暗い顔ばかりしている。あれ以来、何か月も経っているというのに、この牛熊證打靶屋敷は火が消えたみたいだった。
――どうして、こんなことに・・・・・・

あの娘との結婚以来、王子の悪い噂は聞こえては来ないが、それもいつまで続くものか。幸い、まだ王子からの無茶な要求はない。この平穏が長く続いてほしいものだ。決して、夫のこれ以上の暗く沈んだ顔を見たくはない。
あの娘の前に現れたという善き正しき魔女に私は言いたい。
あなたのやったことは、本当に正しいことだったの? あれで、本当によかったの?
そして、祈る。
本当に、あなたが正しい行いをするというのなら、どうかあの娘の身の上には不幸な運命が巡ってこないように見守っていてください。私の夫のためにも。それがあなたの最低限の責任でしょ?
その祈りの途中に、お城の方角から危急を知らせる鐘が聞こえてきた。体の中で一気に緊張感が増す。もし、あの鐘が二度だけ鳴らされたならば、それは王族の誰かに不幸が訪れたことを意味する。これまでにも何度も鳴ったことがあった。そして、三度も鳴ったなら誰かに幸運が訪れたということを意味するのだ。たとえば、妃が懐妊したというような。
やがて、二度目の鐘が鳴らされた。
眼を閉じて、神に願う。どうかどうか、さらにもう一度鐘の音を。
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